松本市の東にある入山辺地区は、美ケ原高原や三城牧場など広大で豊かな自然に三方を囲まれ、面積の95%が山地からなる地域。
2007年に公開された日本、カナダ、イタリアの3国合作映画「SILK」のメーンロケ地に選ばれた。
13町会ある地区の真ん中を流れる薄川には、県内で最古の水力発電所がある。また戦国時代の山城跡や多くの石造物が残り、松本市重要無形民俗文化財に指定されている伝統行事の御柱祭や事八日(ことようか)が今も残る歴史深い土地でもある。
そして山あいの地形を生かした果樹栽培では、名産の「山辺ぶどう」が作られ、またそのブドウから造るワインの評価も年々高まっている。
2011(平成23)年の市政まちかどトークで、多くの課題提起がなされた。特に深刻だったのが、若い世代の人口減少による「超少子高齢化」である。
地区内の高齢化率は40%を超え、20年後には人口がさらに3割ほど減少する見込みという。
このため、地区の未来に危機感を覚えた町会役員と有志が「入山辺地区の将来ビジョンを考える会(愛称・こんな山辺にするじゃん会)」を発足。
住民自らが地域課題に向き合い、具体的に行動するため、松本大学の白戸洋教授を講師に招き、課題の把握と研究のための学習会を開いた。
学習会は、現在も月1回のペースで開き、年々参加人数は増えている。
こうした中で出た課題などを、「観光と魅力発信」「食農振興」「住み易い地域づくり」の3グループに集約。それぞれ対応策を練り、これまでに案内看板の設置、休耕田の活用、景観整備のための植樹を行うなど、着実に成果を上げてきた。このように多くのプロジェクトを地域住民主導で行い、地区を盛り上げている。
大運動会や親子ひろば、文化祭など、子供から大人まで世代を超えて交流ができるイベントが多く、地区の人々の絆は強い。この絆をより深く、広めながら「住んでみたい、訪れてみたい入山辺」を目指していく。
片倉工業の初代社長の今井五介氏が入山辺に建てた別荘兼保養所。戦後は皇室のご利用があるほど有名な旅館となったが、2004年に取り壊された。
①徳運寺
1331(元弘3)年に創建された曹洞宗の寺院。
昨年本堂、庫裏、山門及び高塀が国の登録有形文化財に指定された。
高さ10㍍以上にもなるやぐらを作って行う厄よけ火祭り(三九郎)は有名。また境内には大きな藤棚があり、花の季節には多くの見物客が訪れる。
②扉温泉「桧の湯」
「東の扉、西の白骨」といわれるほどの名湯。
隣接している食堂では、イワナや山菜、キノコなど季節の味が堪能できる。
伝統行事
入山辺地区連合会長 増澤 範一 さん
入山辺地区は総面積の9割が山林で、中央に薄川が流れ、集落は両岸の段丘上の傾斜地に点在しています。人口は30年前と比べると、3分の2に減少していますが、文化遺産が多く、自然豊かなブドウの産地であります。空気も水もきれいで、松本でも長寿の地区であり、まさに健康寿命延伸都市にふさわしい地区であります。人口減少と高齢化の進む中で、入山辺を何とかしようと立ち上がった集団が、「こんな山辺にするじゃん会」であります。若者から中高年まで約70人のメンバーで、「住んでみたい、訪れてみたい入山辺」を目指して皆で知恵をしぼり活動しております。
入山辺地区の将来ビジョンを考える会(愛称・こんな山辺にするじゃん会)
入山辺地区は市内でも最も高齢化が進んでいる地域の一つ。そこで地域住民が主体となって、この地区を元気にするためにどうすればよいのかを積極的に考え、実際に行動していくプロジェクト。
観光と魅力発信グループ
住んでいる人に地区への愛着を深めてもらい、地区外の人には地区の魅力を発信していくことが目的。
地元の住民や職人の人たち自らの手で、山辺ワイナリーに案内看板を設置。
ガイドマップ「入山辺のさんぽ」やホームページを作成。インターネットの交流サイトでタイムリーな情報を発信している。
食農振興グループ
地区内外や世代を超えて、人の「わ」を広げていく。共同作業を通して、若い世代へさまざまな知識や経験を伝承していくことがねらい。
休耕田を活用して子供たちと一緒にそばを栽培。
田んぼのわプロジェクトによる無農薬、手作業のもち米栽培。収穫した農作物は地域行事の際に提供する。
住み易い地域づくりグループ
入山辺の風景とマッチした癒やしのある景観整備と福祉の向上が目的。地元住民による薄川沿いへハナモモなどの植樹。
ブドウ狩りなど地元の自然環境を生かした入コン(いりこん)を開催し、若い世代にアピール。
高齢者を送迎するボランティア活動も実施している。
※記事内容は2015年4月時点のものです。